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東京地方裁判所 平成元年(ワ)14133号 判決

原告

株式会社第一勧銀ハウジング・センター

右代表者代表取締役

後藤寛

右訴訟代理人弁護士

尾﨑昭夫

川上泰三

額田洋一

新保義隆

被告

森田博

天野正行

右両名訴訟代理人弁護士

森本紘章

補助参加人

小郷建設株式会社

右代表者代表取締役

小郷利夫

補助参加人

株式会社東京企画

右代表者代表取締役

小郷栄子

右両名訴訟代理人弁護士

小山晴樹

渡辺実

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

一原告の請求

被告らは原告に対し、各自二三二三万一三八六円及び内金二三〇〇万円に対する昭和五九年八月八日から完済まで年一四パーセントの割合による金員を支払え。

二事案の概要

1  原告は、請求の原因として、次のとおり主張する。

(1)  原告は、被告森田に対し、昭和五九年六月二九日、二三〇〇万円を次の約定で貸し付けた。

最終弁済期 昭和八四年七月七日

利率 月利0.765パーセント

返済方法 昭和五九年八月以降毎月七日限り、元利均等返済方式により、元利金一九万五八五八円宛支払う。

期限の利益喪失 被告森田が元利金の支払いを一回でも怠ったときは、当然に期限の利益を喪失する。

損害金 年一四パーセント

(2)  被告天野は、右同日、原告に対し、被告森田の右債務につき連帯保証をした。

(3)  被告森田は、昭和五九年八月七日の第一回の期日に元利金の支払いをせず、同日の経過をもって期限の利益を喪失した。

(4)  よって、原告は被告ら各自に対し次の支払いを求める。

① 元金二三〇〇万円

② 昭和五九年六月二九日から同年八月七日までの約定利息二三万一三八六円

③ 同年八月八日から完済まで年一四パーセントの割合による約定損害金

2  被告らは、次のとおり主張する。

(1)  (契約の不成立)

原告の主張する貸付とは、株式会社都市開発(以下、単に都市開発という。)を通じて原告に土地購入貸金融資の申し入れをした被告森田に対し、原告が金員を貸し付けた形式をとり、その実、融資金は都市開発において管理し、これを他の用途に流用するという、原告と都市開発との間の、ローン取引を利用した融資金不正流用の一環としてなされたもので、原告から被告森田に融資金の交付はされていないから、本件貸付は要物性が満たされておらず、契約は成立していない。

(2)  (相殺)

原告は、被告森田の口座に振り込まれた融資金の払戻請求書を預かって、融資金を自己の支配下に置き、都市開発と共謀して、これを融資の目的外に流用したもので、これは被告森田に対する不法行為を構成する。

原告の右不法行為によって、被告森田は、都市開発から購入した融資物件の売買代金二九〇〇万円に相当する損害を被った。

被告らは、平成元年一二月一四日の本件口頭弁論期日において、右損害賠償請求債権をもって、原告の本訴債権とその対当額で相殺する旨の意思表示をした。

(3)  (時効)

原告は、住宅ローン貸付を業とする株式会社である。

原告の請求債権の期限の利益喪失日である昭和五九年八月七日から五年が経過した。

被告らは原告に対し、右口頭弁論期日において、右時効を援用する旨意思表示した。

3  原告は、被告らの時効の抗弁に対し、次のとおり反論する。

(1)  原告の被告森田に対する貸金につき、都市開発は、原告に対し、あらかじめ、昭和五八年一〇月七日、連帯保証した。

補助参加人らは、昭和五九年二月九日、都市開発の右債務につき物上保証し、補助参加人小郷建設はその所有の別紙物件目録記載一ないし六の不動産につき、補助参加人東京企画はその所有の同目録記載七、八の不動産につき、それぞれ、債務者都市開発、極度額 一億一〇〇〇万円、被担保債権の範囲昭和五八年一〇月七日付け保証契約による一切の債権、手形債権、小切手債権とする本件根抵当権設定登記をした。

(2)  原告は、昭和五九年一〇月二六日、別紙物件目録記載一、二、七、八の各不動産につき、東京地方裁判所に、同目録記載三ないし六の各不動産につき、千葉地方裁判所佐倉支部に、いずれも都市計画に対する右保証債務履行請求権等を請求債権として、本件根抵当権に基づく不動産競売の申立てをし、東京地方裁判所は同月二九日、佐倉支部は同月三〇日、それぞれ不動産競売開始決定をした。

右開始決定正本は、同年一一月一四日(東京地裁分)、同年一二月二八日(佐倉支部分)、それぞれ当該事件の債務者である都市開発に送達された。

(3)  したがって、原告の都市開発に対する保証債務履行請求権の消滅時効は中断した(民法一四七条二項、一五五条)。

(4)  不動産競売手続は、「差押」として時効を中断すると同時に、そこに包含される「請求」の要素から、「裁判上の催告」としての効果が導かれる。

右競売申立ては、都市開発に対する「裁判上の催告」としての効果があり、手続き継続中その効果は継続し、「催告」として、主債務者である被告森田に対して絶対効が及び、被告森田に対する本訴提起、すなわち「請求」によって、確定的に時効は中断したというべきである。

4  被告らは、原告の右主張に対し、次のように反論する。

現行民法は、時効中断事由としての「請求」と「差押」を峻別している。不動産競売手続が時効中断事由として「差押」と同一の効力を有するとしても、それが同時に「請求」あるいは「請求」の一種としての「催告」としての効力を有するというようなことはありえない。連帯保証人に生じた事由のうち、「請求」のみが主債務者に絶対効が及ぶ(四五八条、四三四条)。

したがって、不動産競売手続の「差押」の効力によって、連帯保証人である都市開発に対する時効が中断するとしても、これにより、主債務者である被告森田に対する時効が中断することはない。

三当裁判所の判断

1  本件の最大の争点は、被告らの主張する時効の抗弁の成否である。

2  〈証拠〉によれば、請求原因事実が認められる。

被告らの主張(1)、(2)の事実を認めるに足りる証拠はない。

3  被告ら主張(3)(時効の抗弁)につき、判断する。

右二2に記載の被告らの主張(3)の事実及び右二3に記載のこれに対する原告の反論(1)ないし(3)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

争点は、連帯保証人の物上保証人に対する不動産競売申立てによって、連帯保証人に対する消滅時効は中断するが、これにより主債務者の関係でも消滅時効は中断するかである。

原告は、右二3(4)に記載の理由により、時効中断効があると主張するのであるが、当裁判所は、被告らの右二4記載の反論をもって、正当であると判断するものである。

4  そうすると、原告の被告らに対する本訴請求権はいずれも時効により消滅しているものといわなければならない。

よって、原告の請求を棄却することとする。

(裁判官坂本慶一)

別紙物件目録〈省略〉

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